最終更新: (民法および裁判所・国税庁の公表資料にもとづく)
相続放棄とは?——効果・3か月の熟慮期間・やってはいけないこと・順位の繰り上がり
相続放棄とは、家庭裁判所に申述して、被相続人(亡くなった方)の権利も借金などの義務も一切受け継がないことを選ぶ手続きです。認められると、その相続については初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。期限は自分が相続人になったことを知った時から3か月(民法915条)、そして一度受理されると撤回できません(民法919条)。借金の相続や音信不通の親族の相続で「どうすればいいか分からない」という方に向けて、まず全体像を一次情報にもとづいて整理します。
結論——相続放棄は「一切受け継がない」を家庭裁判所に届け出る手続き
相続が始まると、相続人は次の3つのうちどれかを選べます。①単純承認=土地などの権利も借金などの義務もすべて受け継ぐ、②相続放棄=権利も義務も一切受け継がない、③限定承認=相続で得た財産の限度でだけ債務を受け継ぐ。このうち相続放棄と限定承認をするには、家庭裁判所に申述する必要があります(単純承認に手続きは不要です)。借金の方が多そう、関わりたくない相続がある、といった場合に選ばれるのが相続放棄です。
出典: 裁判所「相続の放棄の申述」。取得日2026-07-24。本ページは制度の一般的な情報の解説で、放棄すべきかどうかの個別の判断はお示しできません。
効果——「初めから相続人でなかった」とみなされる(民法939条)
相続放棄が家庭裁判所に受理されると、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。プラスの財産(預貯金・不動産など)も、マイナスの財産(借金・保証債務など)も受け継ぎません。「借金だけ放棄して預金は受け取る」という選び方はできず、まとめて受け継がないのが放棄です。また「初めから相続人でなかった」とみなされるため、放棄した人の子への代襲相続も起こりません(子が放棄しても孫は代わりに相続人になりません)。
出典: e-Gov法令検索「民法」第939条(相続の放棄の効力)。取得日2026-07-24。
期限——「知った時から3か月」の熟慮期間(民法915条)
相続放棄には期限があります。民法915条では、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・放棄のいずれかを選ぶこととされています。この3か月を「熟慮期間」といいます。起算点は「亡くなった日」ではなく「自分が相続人になったことを知った時」である点が大切です。何もしないまま3か月が過ぎると、原則として単純承認(財産も借金もそのまま引き継ぐ)をしたものとして扱われます。3か月で財産・借金を調べきれないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられる場合があります。
出典: e-Gov法令検索「民法」第915条 / 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」。取得日2026-07-24。期限の詳しい数え方や伸長は相続放棄はいつまで?(3か月の熟慮期間)で解説しています。
撤回できない——一度受理された放棄はやり直せない(民法919条)
相続放棄は、いったん家庭裁判所に受理されると、熟慮期間内であっても撤回することができません(民法919条1項)。「あとから財産が見つかったのでやっぱり相続したい」と思っても、撤回はできない仕組みです。ただし、詐欺や強迫によって放棄させられた場合など、民法の総則・親族編の規定にもとづく「取り消し」は別に認められています(同条2項)。この取り消しにも家庭裁判所への申述が必要で、行使できる期間にも制限があります。放棄は取り返しがつきにくい手続きなので、財産と借金の全体像を確認してから判断するのが安全です。
出典: e-Gov法令検索「民法」第919条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)。取得日2026-07-24。取り消しの可否など個別の判断は弁護士・司法書士にご相談ください。
要注意——遺産に手をつけると放棄できなくなる「法定単純承認」(民法921条)
放棄を考えているときに最も気をつけたいのが、民法921条の「法定単純承認」です。次のような場合には、相続人は単純承認をしたもの(=相続を受け入れたもの)とみなされ、その後は相続放棄ができなくなります。
| 単純承認とみなされる主な場合(民法921条) | 具体例 |
|---|---|
| 相続財産の全部または一部を処分したとき(1号) | 故人の預貯金を引き出して使う、遺産を売却するなど(保存行為や短期の賃貸は除く) |
| 3か月の熟慮期間内に放棄・限定承認をしなかったとき(2号) | 何もしないまま3か月が過ぎた |
| 放棄・限定承認の後でも、財産を隠す・こっそり消費する・わざと財産目録に載せないとき(3号) | 放棄後に遺産を隠したり使い込んだりした |
とくに1号は誤解が多いポイントです。放棄を検討しているあいだは、遺産に手をつけないのが安全です。何が「処分」にあたるか迷う行為(公共料金の精算、形見分けなど)があるときは、行動する前に弁護士・司法書士にご確認ください。
出典: e-Gov法令検索「民法」第921条(法定単純承認)。取得日2026-07-24。何が処分にあたるかの個別の判断はお示しできません。
順位の繰り上がり——自分が放棄すると次の順位の人が相続人になる
放棄で「初めから相続人でなかった」とみなされる結果(民法939条)、相続人になる人が次の順位へ移っていくことがあります。配偶者は順位に関係なく常に相続人ですが、そのほかの相続人には順位があります。
| 順位 | 相続人になる人 |
|---|---|
| 第1順位 | 子(およびその代襲者=孫・ひ孫) |
| 第2順位 | 直系尊属(父母・祖父母など) |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(およびその代襲者=おい・めい) |
たとえば子が全員放棄すると、第2順位の父母などの直系尊属が相続人になり、直系尊属もいない・全員放棄すると第3順位の兄弟姉妹へと移ります。ここで見落としやすいのが、自分が放棄すると、思いがけない親族に借金が回ることがある点です。借金を理由に放棄する場合は、次に相続人になる親族にも早めに知らせておくと、思わぬトラブルを避けやすくなります。
出典: e-Gov法令検索「民法」第939条 / 裁判所「相続の放棄の申述」(第1〜第3順位の相続人と必要書類)。取得日2026-07-24。
手続き・費用の全体像——このクラスタの読み方
相続放棄の具体的な進め方は、テーマごとに次の記事で詳しく解説しています。まず全体像をつかんでから、必要なページへ進んでください。
- 相続放棄の手続き・やり方——申述先の家庭裁判所、申述書、続柄別の必要書類、申述から受理までの流れ
- 相続放棄の費用——収入印紙800円・連絡用の郵便切手・戸籍などの実費・専門家に頼む場合の費用の考え方
- 相続放棄はいつまで?(3か月の熟慮期間)——期限の数え方・起算日・期間伸長の申立て
- 兄弟(兄弟姉妹)の相続放棄——順位の繰り上がりで相続人になったとき・必要書類が最も多くなる理由
- 相続放棄ができない・認められないケース——遺産の処分・3か月経過・撤回できないなどの注意点(民法921条・919条)
申述には収入印紙800円分(申述人1人につき)などの費用がかかります。金額の内訳は費用の記事で確認できます。
放棄をめぐる個別の疑問——ケース別に深掘り
「借金だけ放棄できる?」「放棄した後の実家はどうなる?」など、状況によって変わる疑問はテーマごとの記事で解説しています。
- 借金だけ相続放棄できる?——マイナスの財産だけ放棄はできない理由・限定承認との違い・次順位への影響(民法939条)
- 相続放棄した後の空き家・実家はどうなる?——現に占有している場合の保存義務・相続財産清算人の制度(令和5年改正後の民法940条・952条)
- 相続放棄と代襲相続——放棄では孫は代襲しない——なぜ放棄では代襲が起きないのか・順位の繰り上がりとの違い(民法939条・887条2項)
- 相続放棄と生命保険(死亡保険金)——受取人指定があれば放棄しても受け取れる理由・非課税枠は使えるのか(最判昭40.2.2・No.4114)
相続税との関係——放棄しても「法定相続人の数」は減らない
相続放棄は相続税の計算にも関わります。相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や、生命保険金・死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を計算するときの「法定相続人の数」は、放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の人数で数えます(国税庁No.4114・No.4117)。つまり誰かが放棄しても、これらの計算上の人数は減りません。一方で、放棄した人自身が受け取った死亡保険金・死亡退職金には非課税枠は適用されない点に注意が必要です。相続税がかかりそうかどうかの目安は、まず相続税計算シミュレーターで確認できます(税額の目安は概算です)。
出典: 国税庁 No.4114(死亡保険金)・No.4117(死亡退職金)。取得日2026-07-24。基礎控除のしくみは相続税の基礎控除、生命保険金の非課税枠は死亡保険金の非課税枠で解説しています。放棄と生命保険金の受け取り可否は相続放棄と生命保険(死亡保険金)で詳しく解説しています。具体的な税額は税理士・税務署にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
- 相続放棄とは何ですか?
- 相続放棄とは、家庭裁判所に申述して、被相続人(亡くなった方)の権利も義務も一切受け継がないことを選ぶ手続きです。相続が開始したとき、相続人は「単純承認(すべて受け継ぐ)」「相続放棄(一切受け継がない)」「限定承認(得た財産の限度で債務を受け継ぐ)」の3つから選べます。相続放棄と限定承認をするには、家庭裁判所への申述が必要です(裁判所「相続の放棄の申述」)。
- 相続放棄をするとどうなりますか?
- 相続放棄が受理されると、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。プラスの財産も借金などのマイナスの財産も受け継がず、放棄した人の子への代襲相続も起こりません。また、同じ順位に他の相続人がいなければ、次の順位の人が新たに相続人になります。
- 相続放棄はいつまでにできますか?
- 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です(民法915条)。この3か月を「熟慮期間」といい、この間に単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選びます。起算点は「亡くなった日」ではなく「自分が相続人になったことを知った時」です。3か月で判断できないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられる場合があります。
- 一度した相続放棄は取り消せますか?
- 家庭裁判所に受理された相続放棄は、熟慮期間内であっても撤回することができません(民法919条1項)。ただし、詐欺や強迫によってした場合など、民法の総則・親族編の規定により取り消しができる場合は別に定められています(同条2項)。取り消しにも家庭裁判所への申述が必要です。判断に迷う場合は弁護士・司法書士にご相談ください。
- 相続放棄すると相続税の基礎控除は減りますか?
- 相続税の基礎控除や生命保険金・死亡退職金の非課税枠を計算するときの「法定相続人の数」は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます(国税庁No.4114・No.4117)。つまり、誰かが放棄しても基礎控除などの計算上の人数は減りません。ただし放棄した人自身が受け取った保険金には非課税枠は適用されません。具体的な税額は税理士・税務署にご確認ください。
一次情報(出典)
出典(取得日 2026年7月24日):
- e-Gov法令検索「民法」第915条(熟慮期間)・第919条(撤回及び取消し)・第921条(法定単純承認)・第939条(相続の放棄の効力)
- 裁判所「相続の放棄の申述」(3つの選択肢・申述先・費用・第1〜第3順位の相続人と必要書類)
- 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」(熟慮期間の伸長)
- 国税庁 No.4114(相続税がかかる財産・死亡保険金) / No.4117(死亡退職金)(法定相続人の数は放棄がなかったものとして数える)
相続放棄は死亡後の手続き全体の中では「知った時から3か月以内」に位置づけられます。手続き全体の流れと期限は相続手続きの順番(死亡後にやること・期限一覧)で確認できます。誰に相談すればよいか迷うときは相続は誰に相談すればいい?もあわせてどうぞ。相続税がかかりそうかどうかの目安は相続税計算シミュレーターで確認できます。