最終更新: (民法・裁判所の公表資料にもとづく)
相続放棄で借金は消える?——「借金だけ放棄」ができない理由と注意点
親の借金を引き継ぎたくない——そんなときに使えるのが相続放棄です。相続放棄をして家庭裁判所に受理されると、借金などのマイナスの財産を引き継がずに済みます。ただし、それは初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、預貯金や不動産などプラスの財産も一切受け取れなくなるという意味でもあります。「借金だけを選んで放棄する」ことはできません。ここでは、借金と相続放棄の関係で押さえておきたい一般的なポイントを整理します。
結論:借金は引き継がずに済むが、「借金だけ放棄」はできない
相続放棄をすると、民法939条によりその相続に関しては初めから相続人でなかったものとして扱われます。この効果によって、被相続人(亡くなった方)の借金・保証債務といったマイナスの財産を引き継がずに済みます。一方で、プラスの財産(預貯金・不動産・株式など)も同時にすべて受け取れなくなります。相続放棄は、プラスとマイナスをまとめて手放す手続きであり、「借金だけを放棄して、預貯金は受け取る」といった選び方はできません。まずはこの点を押さえておくことが大切です。
出典: e-Gov法令検索「民法」第939条(相続の放棄の効力)。取得日2026-07-24。
「プラスの財産の範囲で借金を引き継ぐ」方法もある(限定承認)
借金があっても、プラスの財産もそれなりにありそうで、どちらが多いか分からない——というときには、「限定承認」という選択肢もあります。限定承認は、相続で得たプラスの財産の限度で借金などの義務を引き継ぐ方法で、家庭裁判所への申述が必要です。裁判所の公表資料では、相続開始のときに相続人が選べる方法として、単純承認・相続放棄・限定承認の3つが示されています。ただし限定承認は、相続人全員で申述する必要があるなど、相続放棄とは手続きや要件が異なります。どの方法が向いているかは財産と借金の状況で変わるため、判断に迷うときは弁護士・司法書士にご相談ください。
出典: 裁判所「相続の放棄の申述」(単純承認・相続放棄・限定承認の説明)。取得日2026-07-24。限定承認の可否・進め方は個別の事情によります。
自分が放棄すると、借金は「次の順位の相続人」へ移ることがある
相続放棄で見落としがちなのが、放棄しても借金そのものが消えるわけではないという点です。放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、相続人の順位が次に移り、借金などの返済義務も次の順位の相続人へ移ることがあります。たとえば子が全員放棄すると父母(直系尊属)へ、父母もいない・放棄すると兄弟姉妹へと移っていきます。「自分が放棄したから安心」と思っていたら、あとから別の親族に督促が届く、というケースもあり得ます。借金を家族に引き継がせたくない場合は、関係する親族も含めて放棄を検討する必要が生じることがあります。順位の繰り上がりや必要書類の考え方は、兄弟姉妹の相続放棄の解説ページもあわせてご覧ください。
出典: e-Gov法令検索「民法」第939条。取得日2026-07-24。誰が次の相続人になるかは個別の家族関係で異なります。
注意:放棄する前に遺産や借金に手をつけると放棄できなくなる(921条)
借金の相談でとくに気をつけたいのが、放棄する前に相続財産に手をつけてしまうことです。民法921条では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、原則として単純承認(相続を受け入れたもの)をしたものとみなすとされています。故人の預貯金を引き出して借金の返済にあてる、遺産を売って支払いにあてるといった行為も、これに該当し得ます。よかれと思って立て替え返済をした結果、放棄できなくなる、ということが起こり得るのです。放棄を検討しているあいだは、遺産に手をつけず、故人の財産から支払いをしないのが安全です。何が「処分」にあたるかは判断が分かれることがあり、本サイトでは可否を断定できません。判断に迷う支払いがあるときは、動く前に弁護士・司法書士にご確認ください。
出典: e-Gov法令検索「民法」第921条(法定単純承認)。取得日2026-07-24。ここでは制度の一般的な考え方のみを示しています。
借金がいくらあるか分からないとき——調べ方の手がかり
「借金がありそうだが、金額も相手も分からない」というのは、相続放棄を考える多くの人が直面する悩みです。手がかりのひとつが、銀行・クレジット会社・消費者金融などの借入情報を扱う「信用情報機関」への情報開示を求める方法です。相続人が所定の手続きで、被相続人の借入や滞納の記録を確認できる制度があるとされています。このほか、故人あての請求書・督促状・契約書、預貯金通帳の引き落とし履歴なども、借金の存在を知る手がかりになります。具体的な開示の手続きや必要書類は機関ごとに異なるため、各機関の案内や、弁護士・司法書士に確認しながら進めるのが安全です。本サイトでは、個別の調査方法や結果の読み取りについての判断は行っていません。
上記は一般的な情報です。信用情報の開示手続きの詳細は各機関の案内でご確認ください。取得日2026-07-24。
3か月の期限に注意——借金が後から分かったとき
相続放棄には期限があります。自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に、家庭裁判所へ申述する必要があります(民法915条)。何もしないまま3か月が過ぎると、原則として単純承認をしたものとして扱われ、放棄できなくなります。財産や借金の全体像が3か月で把握しきれないときは、期間の伸長を申し立てられる場合があります。また、被相続人に借金があること自体を知らなかったなど、事情によっては3か月を過ぎた後でも放棄が認められる場合があるとされていますが、これは個別の事情に応じた判断を要するもので、認められるとは限りません。期限が迫っている、または過ぎてしまったという場合は、自己判断で諦めず、できるだけ早く弁護士・司法書士にご相談ください。期限の数え方や伸長の申立ての詳細は、期限の解説ページで整理しています。
出典: e-Gov法令検索「民法」第915条 / 裁判所「相続の放棄の申述」。取得日2026-07-24。3か月経過後の可否は個別事情により判断され、本サイトでは断定できません。
債権者(お金を貸した側)から請求が来たら
故人あての借金の督促が相続人に届くことがあります。相続放棄をして家庭裁判所に受理されると、その旨の通知が届き、放棄したことを債権者に示す書類(受理を証明する書類)を取得できる制度もあります。もっとも、債権者への具体的な対応の仕方や、どの書類をどう使うかといった個別の対応は、法律上の判断をともなうため、本サイトではお示しできません。督促への返答や交渉を自己判断で進めると、思わぬ不利益につながることもあります。請求が来て困っているときは、相続放棄の申述書類の作成は司法書士、債権者との対応や相談全般は弁護士に相談できます。まずは慌てて支払いをしたり、遺産に手をつけたりしないことが大切です。
上記は一般的な情報です。債権者対応の個別の判断は、弁護士にご相談ください。取得日2026-07-24。
一次情報(出典)
出典(取得日 2026年7月24日):
- e-Gov法令検索「民法」第939条(相続の放棄の効力)・第921条(法定単純承認)・第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
- 裁判所「相続の放棄の申述」(単純承認・相続放棄・限定承認の説明、申述期間・費用)
よくある質問
- 相続放棄をすれば借金は引き継がなくて済みますか?
- 相続放棄をして家庭裁判所に受理されると、その相続に関しては初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、被相続人の借金などのマイナスの財産を引き継がずに済みます。ただし同時に、預貯金・不動産・株式などプラスの財産も一切受け取れなくなります。放棄はプラス・マイナスをまとめて放棄する手続きであり、借金だけを選んで放棄することはできません。
- 借金だけを相続放棄することはできますか?
- できません。相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金や不動産などプラスの財産もすべて受け取れなくなります。プラスの財産の範囲で借金を引き継ぐ「限定承認」という方法もありますが、相続人全員で家庭裁判所に申述する必要があるなど手続きが異なります。どの方法が向くかは財産と借金の状況によって変わるため、弁護士・司法書士にご相談ください。
- 自分が相続放棄すると、借金は誰が引き継ぐことになりますか?
- 相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、相続人の順位が次に移り、借金などの返済義務も次の順位の相続人へ移ることがあります。たとえば子が全員放棄すると父母(直系尊属)へ、父母もいない・放棄すると兄弟姉妹へと移ります。借金を家族に引き継がせたくない場合は、関係する親族も含めて放棄を検討する必要が生じることがあります。順位の移り方や必要書類は個別の家族関係で変わるため、専門家にご確認ください。
- 故人の借金を立て替えて返済すると相続放棄できなくなりますか?
- 故人の預貯金など相続財産を使って借金を返済するなど、相続財産の全部または一部を処分すると、原則として単純承認(相続を受け入れたもの)とみなされ、その後は相続放棄ができなくなることがあります(民法921条)。放棄を検討しているあいだは、遺産に手をつけたり、故人の財産から支払いをしたりしないのが安全です。判断に迷う支払いがあるときは、動く前に弁護士・司法書士にご確認ください。
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