最終更新: (民法・法務省の公表資料にもとづく)
遺留分侵害額請求とは?——請求の流れ・時効・生前贈与の扱い
遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与によって遺留分より少ない財産しか受け取れなかった相続人が、不足分に相当する金銭の支払を求める権利です(民法1046条)。2019年7月1日施行の改正で、それまでの「遺留分減殺請求」から金銭を請求する権利へと見直されました。もっとも大切なのは時効(知った時から1年・相続開始から10年)です。ここでは、変更点・一般的な流れ・生前贈与の扱いを中立的に整理します。
遺留分侵害額請求とは——不足分を「お金」で請求する権利
遺留分とは、配偶者・子・直系尊属といった一定の相続人に保障された、遺産の最低限の取り分です(遺留分とはをご覧ください)。遺言や生前贈与でこの取り分を下回る財産しか受け取れなかったとき、遺留分を持つ相続人は、多く受け取った相手(受遺者・受贈者)に対して不足分に相当する金銭の支払を求めることができます。これが遺留分侵害額請求です(民法1046条)。なお、兄弟姉妹には遺留分がないため、この請求もできません。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1046条。取得日2026-07-22。
2019年の改正で何が変わったのか——「減殺請求」から「侵害額請求」へ
2018年に成立し、2019年7月1日から施行された相続法の改正で、この権利は「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」から「遺留分侵害額請求」へと名称と内容が見直されました。
改正前は、遺留分を侵害された相続人が権利を使うと、対象の財産そのものを取り戻す扱い(たとえば不動産が相手との共有になる)が基本でした。改正後は、不足分を金銭で支払ってもらう権利(金銭債権)に一本化されています。これにより、不動産や事業用財産が細かい共有状態になって処分しにくくなる、といった問題を避けやすくなりました。2019年7月1日以後に開始した相続には、この新しいルールが適用されます。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1046条 / 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(相続法の改正)について」(遺留分制度の見直し・原則的施行日2019年7月1日)。取得日2026-07-22。
請求の一般的な流れ(内容証明 → 協議 → 調停 → 訴訟)
遺留分侵害額請求は、一般的には次のような順で進むことが多いとされています。あくまで一般的な流れの説明であり、どの手段を選ぶべきか、いくらを請求できるかといった個別の判断は含みません。
① 意思表示(内容証明郵便など):まず相手に「遺留分侵害額を請求する」意思を伝えます。後で「いつ請求したか」を証拠に残すため、内容証明郵便が使われることが多いです。時効との関係でも、この意思表示の時期が重要になります。
② 協議(話し合い):当事者どうしで、金額や支払方法を話し合います。合意できれば合意書などを作成します。
③ 調停:話し合いでまとまらない場合、家庭裁判所の調停手続きを利用できます。
④ 訴訟:調停でも解決しない場合は、裁判所での訴訟へ進むのが一般的な流れです。
どの段階から始めるか、どのような書面を用意するかは事情によって変わります。本サイトでは個別の進め方についての助言はできません。具体的な対応は弁護士にご相談ください。
上記は制度の一般的な流れの説明です。個別の手続きの選択・時期は事情により異なります。取得日2026-07-22。
最重要:時効は「知った時から1年」「相続開始から10年」
遺留分侵害額請求でもっとも注意したいのが時効です。この権利は、相続の開始と遺留分の侵害があったことを知った時から1年で時効にかかります。さらに、それらを知らなかった場合でも、相続開始の時から10年を過ぎると行使できなくなります(民法1048条)。
「知った時から1年」は非常に短い期間です。遺言の内容を知って自分の取り分が少ないと気づいたら、1年はあっという間に過ぎてしまいます。遺留分が侵害されている可能性に気づいた時点で、できるだけ早く弁護士に相談することが、権利を守るうえで大切です。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)。取得日2026-07-22。
生前贈与も対象になる?——算入される贈与の概説
遺留分は、亡くなった時点の財産だけでなく、一定の生前贈与を加えた「基礎財産」をもとに計算されます(民法1043条)。どこまでの贈与を加えるかは、贈与を受けた相手によって次のように分かれます(民法1044条)。
相続人への贈与(特別受益にあたるもの):原則として相続開始前の10年以内のものが対象
相続人以外(第三者)への贈与:原則として相続開始前の1年以内のものが対象
ただし、贈与をする側と受ける側の双方が遺留分を害することを知って行った贈与は、期間を超えても算入されることがあるなど、例外もあります。実際にどの贈与が算入されるか、評価をどうするかは複雑な判断になるため、目安を超える具体的な確認は弁護士にご相談ください。基礎財産と割合から自分のケースの目安を知りたいときは、遺留分の計算機で概算を確認できます。
出典: e-Gov法令検索「民法」第1043条・第1044条。取得日2026-07-22。ここでは制度の概要のみを示しています。
迷ったら弁護士に相談を
遺留分侵害額請求は、遺留分の権利を実際に行使する手続きであり、法律の専門的な判断を伴います。基礎財産に含める贈与の範囲、財産の評価、相手との交渉、そして何より時効の管理など、専門家でなければ判断が難しい点が多くあります。本サイトは一般的な制度の解説と概算計算を行うもので、個別の法律相談や請求の代理には対応していません。遺留分が侵害されている可能性がある、時効が近い、といった場合は、早めに弁護士へ相談してください。どの専門家に相談すべきか迷うときは相続は誰に相談する?(税理士・司法書士・弁護士の違い)も参考にしてください。
一次情報(出典)
出典(取得日 2026年7月22日):
- e-Gov法令検索「民法」第1043条(遺留分を算定するための財産の価額)・第1044条(贈与の算入)・第1046条(遺留分侵害額の請求)・第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(相続法の改正)について」(遺留分制度の見直し・金銭債権化・原則的施行日2019年7月1日)
よくある質問
- 遺留分侵害額請求とは何ですか?
- 遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与によって自分の遺留分より少ない財産しか受け取れなかった相続人が、遺留分を侵害している相手(多く受け取った受遺者や受贈者)に対して、不足分に相当する金銭の支払を求める権利です(民法1046条)。遺留分を持つのは配偶者・子・直系尊属で、兄弟姉妹にはこの権利がありません。
- 遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求は何が違いますか?
- 2019年7月1日に施行された相続法の改正で、それまでの「遺留分減殺請求」が「遺留分侵害額請求」に変わりました。改正前は不動産などの財産そのものを取り戻す(共有になる)扱いが基本でしたが、改正後は不足分を金銭で支払ってもらう権利(金銭債権)に一本化されました。これにより、財産が細かい共有状態になる問題が避けられるようになりました。
- 遺留分侵害額請求の時効はいつですか?
- 遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分の侵害があったことを知った時から1年で時効にかかります。また、それらを知らない場合でも、相続開始の時から10年を経過すると行使できなくなります(民法1048条)。「知った時から1年」は短いため、遺留分が侵害されている可能性に気づいたら、早めに弁護士へ相談することが大切です。
- 遺留分侵害額請求はどんな流れで進みますか?
- 一般的には、まず相手に意思表示をして(内容証明郵便が使われることが多い)、当事者間の話し合い(協議)で解決を試みます。まとまらない場合は家庭裁判所の調停、それでも解決しないときは地方裁判所などでの訴訟へ進むのが一般的な流れです。ただし、実際にどう進めるべきかは事情によって異なるため、具体的な進め方は弁護士にご相談ください。
- 生前贈与も遺留分侵害額請求の対象になりますか?
- 一定の生前贈与は、遺留分を計算する基礎財産に含められます。相続人に対する特別受益にあたる贈与は原則として相続開始前10年以内のもの、相続人以外の第三者への贈与は原則として相続開始前1年以内のものが対象とされています(民法1044条)。ただし当事者双方が遺留分を害することを知って行った贈与など、例外的に期間を超えても算入される場合があります。個別の判断は弁護士にご確認ください。
遺留分の基本(誰に・どれくらいあるか)は遺留分とは(もらえる人・割合・計算方法)で、自分の家族構成と財産額での目安は遺留分の計算機で確認できます。相談先に迷うときは相続は誰に相談する?、相続税がかかりそうかどうかの目安は相続税計算シミュレーターでどうぞ。